一
松原林と親友であることに、七海遥は今でも戸惑っている。
中学1年B組の七海遥は喋ることと動くことが嫌いである。しかし、小さい頃から泳いでいたため、痩せて背が高い男の子だった。彼はクラスの窓際の最後の列に座っていて、何事にも気を使わず、友達もいなかった。
彼の両親は京都から離れた田舎の工場で働いていたが、そこには学校がなく、方言もよくわからなかったため、彼は小さい頃から一人で家に住んでいだ。隣のお弁当屋さんは両親に頼まれて彼の食事の世話をしていた。
七海遙が唯一好きなことは水泳だ。
水は静かで、拘束もなく、面倒もなく、長い間一人であることに慣れていた彼は、静かな世界を泳いでいる感覚を楽しんでいたが、他には関心がなかった。
松原林は七瀬遥と真逆の人間であった。両親が外資系企業で働いていた彼は小さい頃から明るくおしゃべりで、誰とでも素早くなじむことができ、各科の成績もとても良く、永遠に話題の中心だった。
松原林も水泳が好きだが、水泳自体よりも競技による圧迫感を楽しんでいる。
小さい頃からエリート教育を受けていたのか、どんなに困難であっても一位を取るよう、自分に厳しかった。
彼の実力もその野心に釣り合い、成績が優れているだけではなく、様々な水泳大会でもトロフィーを受け取ってきた。
今は親友である二人が知り合ったのも、ほんの少し前の出来事である。
2月に行われる京都小学生水泳大会は、数年前は七海遙が面倒で一度も行かなかったが、その年はコーチに「小学校最後の年に思い出を作った方が良い」と言われてようやく男子100メートルフリーに参加した。
面倒くさがりな彼にとって、試合に参加した動機も、コーチの小言を聞くよりも、競技場で一回泳いだ方が楽だと思ったからである。
松原林という大きな面倒に遭遇しなければ。
七海遙は今でもその日を忘れられず、その日の出来事は彼の静かな世界をかき回していた。
今まで七瀬遥は水の中で他人の存在を強く感じたことはなかった。しかし松原林は背後で獰猛に追いかけ、彼は速度を上げなければならず、松原林に飲み込まれるのを恐れていた。
結局七海遙が勝った。
松原林はゴールに到達して力を尽くして倒れていたが、彼は普通に上陸して、普通に眼鏡を脱いで髪を振って、とても楽に見えた。
「一位三条水泳館七海遙 １分30秒50」と、審査員が大声で成績を発表したら、周囲から驚嘆の声が上がり、七海遙はその場を去ろうとした。
「二位京都水泳館松原林 １分33秒28」。
七海遙は少し驚き、動きが止まった。あの人の名前は「松岡林」だったんだ。危うく負ける所だった。
七海遙はまだ深呼吸をしている松原林を見下ろし、彼の深い光を放つ瞳に目が合ったとたん、視線を外せなくなった。
彼の心を固く守っていた壁が一瞬に裂け、松原林が放つ光が入ってきたのを感じ、自分の心の鼓動しか聞こえなくなった。
何が起きているのか、わからない。
「ねぇ、きみ、名前は？」松原林はすぐに起きて、彼に尋ねた。
さっき審査員が発表していたじゃないか、と七海遙は思い、何も言わずに去ろうとした。
「おい、無視しないでよ。七海遙でしょ。」松原林は走ってきて彼の腕を引いた。
そんなに近寄るな、七海遙は妙にイライラし始めたが、どうやって押しのけたらいいのかわからなかった。
「三条のクラブの人？水泳は習い始めたばっか？今までの大会で見たことない顔だね。」と松原林は尋ねた。
「別に君と関係ないでしょう。」七海遙はやっと口を開いた。
「おい、そんなに冷たくしないでよ」と松原林はま喋り続けた。「今までの優勝は全部僕だったから、初めて負けた君に興味があるんだよ。」
「あなたには興味がない」と七海遙は振り返って歩きながら言った。
「おい、行かないでよ」松原林はすぐについてきた。「どこの小学校に通っているの?中学校はどこ行くつもり？私はさくら小！もうすぐさくら中に進学するんだ…」
面倒なやつだ。
これはあの時七海遙が松原林に抱いたすべての印象である。
もう松原林には二度と会わないと思っていた。
七海遙が進学したのは松原林が言った中学校ではないし、入学式の日にわざわざ新入生リストをチェックした時も、松原林の名前はなかった。
水泳館の人も、彼がトロフィーを持ってきたときだけ、あの連勝中の松原林に勝つなんて素晴らしいなあと言われたきりで、それ以来あの名前を再び聞くことはなかった。
あいつの性格なら水泳部に入って、サークルと地域の試合に参加するに違いない。彼らの未来はもう接点がないと七海遙は思った。
六月初めのある日、彼が教室に入った途端、どこか違うような雰囲気を感じて、ほとんどの人は彼を見つめていた。
彼が自分の席を見たら、そこには一人の男がどんと座っていて、彼を見て笑った。
「久しぶり、はる。」
七海遙はこの瞬間初めて6月の日差しを眩しいと感じた。
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